殺人、強盗を職業とする男、ベン。そして、彼を追うドキュメンタリー映画の撮影クルーたち。ベンと接していく内に撮影クルーたちは、その立場・様相を変化させていく事となる。
この映画は、1992年にベルギーで製作されたモノクロ映画である。
若手の三人が共同で、製作、監督、原案、脚本、撮影、編集をして、プロダクションも自分達で設立したらしい。だからという訳でも無いだろうが、全体的に画質は粗目で途中でいきなりカットは変わるしカメラも安定しない。だが、これらがこの映画に(つくられていく)ドキュメンタリーとしてのリアリティーを持たせ、なおかつスピード感を高めている。
そして、死体を捨てるシーンのバックに流れるチープで美しいフルートの音は、この映画に独特のユーモアをにじませてくれているように感じる。
この映画を見ていて一番強烈に感じさせられるのは、ブノワ・ポールヴールドの演じる殺人者ベンの魅力である。彼は、ピアノを弾き、詩と犯罪哲学・理論を同時に語り、それに含まれる矛盾はその迫力ある存在感で覆い隠していく。
こうして非人道的な感性は超人的な感性であるかのように錯覚させられていってしまう。これは映画の中にいる撮影クルー達だけでなく、私にもそう訴え掛けてくるのである。私はここが、この映画に於ける最大の魅力だと思っている。この麻薬性に酔えるか否か。まるでこの映画は「カリスマ性」の持つ影響力の実験をしているかのようだ。
しかし終盤に差し掛かると、その展開はスピード感を逸し、ラストは余りにも型にはまりきった終り方をする。それが、この映画を支配しているものが危険思想などでは無く、健全なブラック・ユーモアであったことを再確認させてくれるのだが。
やはり、ちょっとラストは分かり易過ぎたのではないか?と思っている。
この映画がユーモアに満ちていることは映画そのものからにじみ出ていたのだから、それ以上の答を用意しなくても良かったのにと。
最後に、この映画はどうしても残酷なシーンが続くので、そういうものが駄目な人には絶対にお勧めしない。