Cinema Essay

○流 映画論


うっとこの両親が極端な親で、洋楽、洋画など外国人が喋るものすべてを体質的に受け入れ難いらしく、小さい頃の我が家では洋画に触れる要素は全くなかったのですよ。テレビドラマさえも見せてもらえなかったぐらいだからね。当時既にいっぱしの画家だった僕は(今よりもいい絵が描けていたんじゃないかな)欲求不満が溜っていたわけですよ。お小遣いを貯めて初めて観た映画は友達に勧められた『ロッキー4』。つまらなかったです。はい。今でもそうなのだけど、アメリカ的な能天気な価値観やテーマ、結論が嫌だったのですね。小学校の頃から抽象画を描いていた生意気な子でしたから。だから洋画に対して絶望した私はそれ以降一人暮らしを始めるまであまり映画に関心がなかったのです。高校時代までは、洋画に触れる人生じゃなかったのですよ。という背景があるので、僕の映画歴は以外に浅く、基本的に時代にリンクしないレンタルビデオで現在に至る映画知識を得ました。はい。

ただ、一旦自分の嗜好に合う映画のタイプを見つけてからは、のめりこみましたね。アングラに詳しくないのは仕方ないですが…。美術部の連中が映画に詳しかったことが幸いでした。フランス映画、中でもヌーベル・ヌーベル・バーグの絵の作りが、僕の感覚と非常に合うことを発見したのですよ。

この話は良く美術部で議論していたのだけど、映画の観方も人それぞれ違うのです。絵を観る人。音楽を重視する人。役者の表現に注目する人。テーマから問題意識を感じる人。映画が作り出す空間を大事にする人。ストーリーや話の流れを重視する人。娯楽であると割り切る人。

普通の日本人はほとんど後者2つの要素で映画と接している人が多いと思います。残念なことです。僕はさっき告白した通りの背景があるので、前者4つのみの接し方しかしません。僕にとっての映画のストーリなどなきに等しいもので、娯楽である必要など全くありません。僕は芸術媒体としての映画に面白みを感じちゃった人なのです。それが良くわかるのは『コックと泥棒、その妻と愛人』を僕は非常に評価しているのです。なぜなら、この映画はストーリなどなきに等しいアナーキーな内容で、セットも4セットを移動するだけというシンプルな作りで映画にする必要があるのかと疑問に思う人も多いかと思うのですが、僕はこの映画が醸し出す空間と映像美、セット毎の色とダイナミックな音楽に魅力を感じるのです。僕の映画観はこのような見方から成り立っています。以後ざっとダイジェストで僕の気に入った映画を分類して寸評したので、これを見たら僕の傾向がよりはっきりすると思います。

まず、何と言ってもヌーベル・ヌーベル・バーグの旗手、レオン・カラックスの『汚れた血』でしょう。見物はジュリエット・ビノシュこれにつきます。最近の彼女はあまり好感が持てませんが、この映画の中の彼女は最高です。彼女の魅力はこれを見ればすぐにわかるでしょう。

というように僕はビノシュのファンなので、『存在という名の軽さ』『ポンヌフの恋人』『ダメージ』『トリコロール 青の章』はこの路線で見ましたね。『ダメージ』は監督がイギリス人(ルイ・マル)だったので彼女の良さを映像の硬さが壊しているような気がします。

イギリス映画は大衆娯楽アメリカ映画よりも好きです。ただ、日本人が好きそうな『眺めのいい部屋』などは論外です。僕はピーター・グリーグナウェイが好きです。『建築家の腹』『コックと泥棒、その妻と愛人』などの人です。

もちろん、アメリカ映画でも好きな映画はたくさんあります。ようするにヒットする大衆娯楽映画に面白みを感じないというだけです。まず、黒人もの。スパイク・リー関係の『ドゥ・ザ・ライト・シング』『モー・ベターブルース』『マルコムX』などは日本でも人気ありましたよね。麻薬ものも好きだな。『ドラッグストア・カウボーイ』『ドアーズ』などは食い入るように見た記憶があります。

ちょっと臭くなると『ワイルド・アット・ハート』や『タクシー・ドライバー』も結構いいなと思いますし、もっとミーハーになると『セント・エルモ・ファイア』や『イージー・ライダー』、『アメリカン・グラフティ』に憧れちゃったりもします。僕も普通の人です。

裁判ものも好きです。アメリカの裁判って面白いなっと思っちゃいます。『告発』『判定無罪』などをかろうじて覚えている程度ですけど。『セックスと噂と嘘とビデオテープ』は、アンディ・マクドウェルが嫌いです。なぜ彼女がいまだに生き残っているか不思議です。

最近だったら、一押しは『パルプ・フィクション』です。映画ファンだったら間違いなく面白いと思うはずです。見てなかったら絶対見て下さい。こういうB級映画的な映画はいいですね。

SFはあまり好きじゃないのですが、それでも『ブレードランナー』『未来世紀ブラジル』『時計仕掛けのオレンジ』は大好きな映画です。それぞれ思い出があります。

後、最後に選べッと言われたらやはりフランス映画になるでしょうか。『ベティー・ブルー』『グラン・ブルー』『ラ・マン』『ディーバ』。お勧めです。

ざっと、僕の映画寸評をここに並べてみましたが、映画がある程度詳しい人ならば明らかな傾向があることがわかるでしょう。その背景はさっきお話したからもうわかりますよね。まぁとにかく僕はこういう風に映画を観ているので普通の映画ファンではない人とあまり話が噛み合いません。悲しいですが、仕方ないです。僕はこれからも映画を芸術媒体として楽しんでいくことでしょう。

Report: Akira Maruyama (1995.05.28)


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