事故で何年も植物状態だった男が目を覚ました。しかし彼は手を握っただけでその人の未来を予見する能力を見につけてしまった。この能力のために男は隠とん生活を送っている。
常に「内蔵的な」とまで評されるグロテスクな映像を折り混ぜた作品を発表してきたクローネンバーグだが、今回は全くそのようなシーンはない。本人も「自分がこういう普通の映像表現でうまく作品を作れることが判った」などと言う種類のコメントを残している。
誰にでも自信を持って薦められる。そういう意味ではクローネンバーグの傑作だと言えるかもしれない。
クローネンバーグはカナダ人であるが、そのせいか彼の作品には寒々しさが感じられる。この作品は舞台を冬のカナダに設定し、全く寒いイメージにおおわれている。そしてクリストファー・ウォーケンがまた感情の薄い男を演じていて全体の雰囲気を引き立てている。
作品は超能力者の苦悩と言うようなストーリーであるが、それほど単純なものではない。人の未来を見ることによって、男は自分の残酷さに、自分の心の奥の暗黒に苦悩しているのだ。
自分の心の奥底に潜むものを追求しようと言うこのクローネンバーグのテーマは終始一貫しており、彼のほとんどの作品に見られる。特に『裸のランチ』などにそれが剥き出しになっている。