瞑想タンクに入って幻覚を見ながら人類の発生過程をたどろうとする男。男はそのうちに自分の肉体が変化していくのに気づく。因みに原題『Altered States』を訳すと『変えられた精神状態』となる。
ハリウッドSF映画なのだが僕は好きだ。理由は二つある。テーマが非常に好みだ。我々の本質は何かということを追い続ける余り自分の心の中の真実に夢中になって落ちていく男を描き続けている。そしてそういう暗い商業映画として成立しないような側面を追いながらハリウッド受けしそうな特撮とアクションをおり混ぜている。
下手に混ぜるとこの辺りはお互いに急に興ざめしてしまうのだが、この映画は失速する事なくこの二つの相容れない要素をバランスさせるのに成功している。
同じく自分の心の中に落ちていくイメージを僕に強烈に感じさせる作品を作り続けているデビッド・クローネンバーグは、時おりこのバランスを失っている。彼の場合はむしろ哲学的な側面に傾き過ぎてしまっているようだ。もちろん僕はそれでいいのだが、一般受けしないのは言うまでもない。バランスを失い、受けなかった作品としては『ビデオドローム』、一部の特撮部分だけがいたずらにマスコミに強調されて台無しになってしまった『スキャナーズ』などが挙げられる。うまくバランスして文句なく薦められる作品もある。『デッド・ゾーン』がそれだ。
またまた脱線するが、この映画が幻覚を見るための小道具として使っている「瞑想タンク」は小さなタンクの中に比重の重い液体を入れて体温程度に保ち、まっ暗にして音も遮断してそこに浸かる(浮く)のだ。要は外界からの刺激を断って自分のからだの中から発生している刺激(脳波の雑音?)に敏感になってトリップしようと言うものだ。'70年代に一部で流行った様だが、当時はドラッグも併用されたりしたようだ。
僕はこの映画を見てからずいぶんこの瞑想タンクのことを忘れていた。しかし『御冗談でしょう、ファインマンさん』という本にこのタンクの話しが載っており、同時にファインマンが追いかけた幻想のことが書いてあった。しばらく僕は寝ている最中に自分を自分で観察するように心がけ、夢に見たことを追跡するようにした。三日ほど続けてそういう夢を見たが、なんだか恐ろしいイメージを見始めるようになったので途中でやめてしまった。あれが幻覚の入口だったのだろうと思う。